研究ラボ紹介

新規課題  個人研究

固体による開殻電子性制御指針の確立に向けた理論基盤の構築

研究代表者:多田 幸平 物質創成専攻・化学工学領域

分子の量子性を固体で制御する

分子中の共有結合が弱まると、結合形成のために対をなしていた電子が原子上へ局在し始めます。そのような不対電子をもつ分子は開殻分子と呼ばれています。そして、縮退・擬縮退軌道を占有する不対電子には強い電子相関が働きます(量子的多配置性が高いとも表現されます)。この分子内強電子相関は様々な材料機能の起源となり、そのような電子状態を持つ開殻分子はジラジカル分子と呼ばれています。

ジラジカル分子は一般に安定性が低いため、それらを材料として用いるには固体上へ担持し安定化させるなどの工夫が必要となります。また、単離・合成の難しいジラジカル分子が固体表面上では安定に合成できることが近年報告されています。しかし、固体表面の吸着がジラジカル分子に与える影響に関しては不明点が多く、分子デバイスの創成と化学反応の新原理の構築のため、固体-ジラジカル相互作用に関する理論基盤の構築が望まれます。

真空中のジラジカル分子であれば、量子化学に基づく分子軌道計算を用いて詳細な議論が可能です。ですが、この手法は計算コストが高く固体に適用することは困難です。研究代表者は、固体のバンド計算法に量子化学の技法を組み込むことにより、固体中・固体表面上のジラジカル分子を現実的な計算コストで計算・解析することに成功し[1]、固体によってジラジカル分子の量子的多配置性が変化することを報告しました[2]。本研究では、この開発手法を用いて、固体-ジラジカル分子の相互作用を体系化することで、固体によるジラジカル制御という新たな分子性材料設計指針の提示を目指します。

[1] K. Tada, H. Ozaki, K. Fujimaru, Y. Kitagawa, T. Kawakami, and M. Okumura, Phys. Chem. Chem. Phys., vol. 23, pages 25024–25028, (2021) https://doi.org/10.1039/D1CP03439A [2] K. Tada, T. Kawakami, and Y. Hinuma, Phys. Chem. Chem. Phys., vol. 25, pages 29424–29436

 

サムネイル図_多田.png

(上図)分子の開殻性と材料機能の関連に関する概説図。(下図)本研究成果の応用例

  

参考URL

http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/kitagawa/index.html